2011年6月27日 (月)

意図せざる戦い

仕事に追われてしばらくブログを書くのがおろそかになっていました。ようやく仕事が一段落したので、たまっていた伝えたいことを書いていきます。

まずはダイヤモンドオンラインの最新記事の紹介から。本日よりダイヤモンドオンラインの新経営学教室で私の書いた

Daimondonlineimage

ゲーム人口は増えているのに
なぜゲーム機が売れなくなったか
「意図せざる戦い」を戦い抜く3つのポイント

が公開されています。

携帯電話を例に取りながら、入ってくる方にはその業界や事業を脅かすつもりはないのに、いつの間にか、自分たちの業界が浸食されてしまう例が増えています。
携帯電話の普及が時計の売れない原因になったり、ゲームをやる人口は増えているのにゲーム機が売れなくなったわけとは、といった内容です。

詳しくは本文をご覧下さい。

http://diamond.jp/articles/-/12870

尚、ダイヤモンドオンラインの連載は約束の6回が終了したので、今回で最後です。読んで下さった方、どうもありがとうございました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年5月31日 (火)

業界地図が塗り変わる旅行業界

5月30日付けでダイヤモンドオンライン「日本を元気にする新経営学教室」第5回目の原稿として、
気がついたら競争ルールが変わっていた
-なぜ旅行業界で新興勢力が台頭したのか-
というテーマで新しい記事を寄稿しました。

最近2010年度の旅行代理店の取扱高が発表されたのですが、ちょっとして異変が起こりました。
1位 JTB
2位 近畿日本ツーリスト
3位 日本旅行
4位 阪急交通社
ここまでは皆さんの想像の範囲だと思います。
そして、5位がHISで、6位が楽天トラベルです。これもそんなものだろうなという感じでしょうか?

これだけだとたいしたニュースではないのですが、取扱高を国内と海外に分けると異変がクリアになります。国内の取扱高ではJTBの次に楽天トラベルが2位になったのです。一方で、海外については既にHISが2位につけています。
ということで、1位のJTBは不動の地位(といっても今のところですが)ですが、2位にそれぞれ新興旅行代理店が入りました。

今までの総合旅行代理店という業種が危機に瀕しているのです。

それがなぜで、どういうインパクトをもたらしたかは
是非以下の記事をクリックして本文をお読みください。
Daimondonlineimage

 

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2011年5月30日 (月)

美しく勝つ

昨日と言うより、本日未明にサッカーのヨーロッパクラブ選手権の決勝戦があった。チャンピオンズリーグ決勝戦で、イングランドのマンチェスターユナイテッドとスペインのFCバルセロナとの一戦だった。とても素晴らしい試合だったと同時に、きれいでため息の出るようなバルセロナの試合展開でもあった。

3-1でバルセロナが勝ったのであるが、点差以上にバルセロナの圧勝だった。とにかくパスをつないで、ゲームを支配し、ここぞというところで相手守備陣を切り崩して、堂々とシュートする。

大会の得点王に成り、決勝戦でもMVPとなったメッシが話題となっているが、その中心選手としてゲームを作っているのはシャビであり、ワールドカップでも大活躍をした。空間認知能力の極めて高い選手である。彼がいて初めてメッシの能力が活かされると言っても過言ではない。

マンチェスターユナイテッドは決して弱いチームではない、世界最高峰とも言われるイングランドプレミアリーグの今年の優勝チームであり、チャンピオンズリーグの準決勝戦では日本の内田篤人も出場したことで話題となったドイツのシャルケを一蹴している。いわば王者の試合をするチームである。
この世界でも一二を争うクラブチームであるマンチェスターユナイテッドを相手にバルセロナはパスを回して美し勝つという自分たちのサッカーを堂々と繰り広げて圧勝した。

私がここで書きたかったことは、試合なんだからどんなにみっともなくても、勝てば良いという考えもあるが、バルセロナような美しく勝つことの難しさである。国別のサッカーの祭典であるワールドカップでも優勝常連国であるイタリアやドイツは決してきれいに勝つタイプではない。スペインもバルセロナと同じく美しいサッカーを展開する国であるが、ようやく2010年にワールドカップ南アメリカ大会で初優勝した。

他にも美しいサッカーの代表例として取り上げられるのが1974年のワールドカップオランダ代表である。残念ながら決勝戦で敗れたが、ヨハン・クライフを擁して、とても美しいサッカーを展開して、トータルフットボールという言葉と共に歴史に名を残した。そのときに優勝したのはベッケンバウアーを擁した西ドイツである。興味のある方は、ググって下さい。日本でも2006年の高校サッカー選手権を制した県立野洲高校がパスを回して相手を崩していく華麗なサッカーで、トータルフットボールと呼ばれたことがある。逆に言えば、美しく勝つと言うことはそれくらいまれなことなのである。

ちなみにサッカー以外でも時々、その世界の常識を変えてしまうプレーヤーやチームが登場することがある。テニス界のビヨン・ボルグやF1のアイルトン・セナが代表例だ。

企業競争の世界でも、泥臭く勝つ方が間違いないし、長続きする。たとえばトヨタ、インテル、リコー、GE、コマツなどがそうした企業の代表例であろう。それに対して、美しく勝とうとする企業は一つ二つのヒット商品や成功例は出す者の、なかなか勝者になれないのではないだろうか?ホンダ、ソニーなどがその代表例だ。
今のところ例外がアップルだ。元々美しく勝とうとしてマイクロソフトやインテルのウィンテル連合に完膚無きまでにやっつけられ、倒産寸前だった。それが今やマイクロソフトを上回る株価をつけるまでに成功している。果たして、この先どうなるのであろうか。

余談:本論には関係ないが、1970年代にオランダの中心選手として活躍しトータルフットボールの申し子の名前をほしいままに活躍したクライフは、その後1990年代にスペインのFCバルセロナの監督になり、自分の信念であるパス回しによる美しいサッカーを教え込んだのが今日のバルセロナの美しいサッカーにつながっていると言われている。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2011年3月29日 (火)

WIN-WIN-WINの時代の終わり

先日、雑誌「財界」のインタビューを受けたのですが、それが先週号に記事として載りました。
もちろん、震災発生前のインタビューなので、少し現状の空気とはずれた大所高所の話になっているかも知れませんが、最近の私の持論が載っているのご容赦下さい。

Zaikai_2

一つは、日本の国が抱える構造的な問題、すなわちかつての日本の強みであった、国と企業と個人がWIN-WIN-WINであったのが終わりを告げてしまった。したがって、これからの企業や個人は国を頼って生きてはいけないということを言っています。
かつては国が成長すると企業も成長し、結果として従業員も幸せになるという方程式でした。今は、国が成長するのがきわめて難しくなっています。その中で、今までと同じやり方では、LOOSE-LOOSE-LOOSEになってしまいます。そのため、それにいち早く気づいた企業が自らは何とか収益を上げようと躍起になっています。結果として、企業の利益は上がるのに、そこで働く社員は必ずしも幸せでないという絵柄になってしまいました。これを何とかするためには、個々人が国や企業にぶら下がっていてもダメなんだと気づくことであり、その結果個人が頑張れば、企業も成功し、もしかしたら国も良くなるかも知れないという逆の方程式を狙うしかありません。

さらに、日本の国内だけでは、成長機会がないために多くの日本企業がグローバル市場を目指しています。しかし、日本の企業が日本という国境を自ら定めたり、日本企業であることにこだわりすぎると自由度を失い、ビジネスチャンスを逃すので、東アジア全体があたかも一つの国であるがごとく振る舞って行動した方が良いというのが二点目です。東アジアの消費者のニーズはきわめて均質化しつつある。これらをうまく利用するには、日本企業だ、韓国企業だと言っていてはダメで、域内の企業として生きるべきだというのが私の持論です。東アジア企業構想と勝手に言ってます。

最後に、日本はこれまでは世界第2の経済大国であったために自国経済が大きく、結果としてあらゆる産業を持つことが出来、国としてはフルセット型の産業構造を保持できた。ところが、日本の国としての成熟化(実際は衰退が始まっている)、中国・インドの台頭などで日本の相対的な地位が下がっており、これまでのように全ての産業で競争力を持つことが難しくなっている。その結果、日本は特定の産業でしか競争力を発揮できないし、かつそこに存在する全ての企業が成功するのは難しい。今、日本が国としてなすべきことは、育てる産業を選ぶことではなく、捨てる産業を決めていくことではないかと主張している。ただし、企業をつぶすという意味ではなく、国として育成したり、保護するのをやめていくと言うことである。

詳しく知りたい方のためには、本文のPDFを添付しておくので、ご覧下さい。

「zaikaikiji.pdf」をダウンロード

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2011年2月 3日 (木)

東アジア企業構想

ダイヤモンド社のウェブ版、ダイヤモンドオンラインに新しく連載を始めました。
日本を元気にする新・経営学教室というタイトルで、KBSの高木先生をはじめとする4名の先生方との輪番だ。今回は第2クール目らしいが、私がトップバッターを務めさせてもらった。

Diamondonline

会員登録をしないと全文を読むことができないようであるが、会員登録は無料ですので興味のある方は是非読んでみてください。ダイヤモンド社では日経BPオンラインに並ぶ読者数であると言ってました。

さて、何を書いたかと言えば、下記の要約にあるとおりですが、是非中身を読んでもらってコメントいただけるとうれしいです。

最近のアジアの若人を見ていると、驚くほど嗜好が均質だ。彼らが製品・サービスを選ぶ基準として国籍は二の次。この変化を踏まえ、日本企業も日本の冠に対するこだわりを捨て、真の意味で東アジア企業へ脱皮することが望まれる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年9月14日 (火)

柔道世界選手権金メダル量産の訳

昨日終了した、柔道の世界選手権では日本時選手が過去最高の10個の金メダルを獲得した。
これをもって、日本の柔道が強くなったと勘違いしてはいけない。新しいルールのおかげである。今回より各階級に二人の選手を出せるようになった、その結果世界ランキング上位選手を多く抱える日本は全階級で二人の選手をエントリーできた。

マスコミでは、これによって若手選手が抜擢できたり、代表に選ばれた選手のプレッシャーが減ったから、のびのびと出来て好成績に繋がったと書かれているが、私の見方はそうではない。これは単に確率の問題である。

具体的に検証してみよう。例えば、日本選手の平均勝率を9割とする。10試合やれば9試合勝つ=結構な強さだ。ここでは1回戦から決勝戦まで6試合あるとする、一度も負けずに6試合勝ち進んで、優勝する確率は0.9の6乗=0.53しかない。したがって、日本がいくら強い選手をエントリーしても優勝できる確率は5割しかないのである。

ところが、各階級二人ずつ出せるとしよう。そうなると、二人のうちどちらかが6戦全勝する確率は1-(1-0.53)の2乗=0.78となり、ほぼ8割になる。したがって、全階級のうち8割の階級を制覇できることになる(実際には16階級中10階級の約6割であったが)。

このロジックは日本選手が二人とも同じような強さであるという前提で初めて成り立つわけであるが、世界の他の国比べて日本の柔道選手の層が厚いのは、異論はないであろう(実際世界ランク1位だけでなく同時に2位や3位もいる階級があった)。

このことからの学びは、競争というのは自分に有利なルールで戦うのが得をすると言うことであり、日本のように選手層が厚く誰が出てもそれほどの差がない場合は、複数選手エントリーできる方式が圧倒的に有利である。逆に言えば、オリンピックのように一国一人しか出れないルールは日本柔道には不利と言える。これは偶然の結果ではなく、意図的な結果であろうが・・・。

同じオリンピックの個人競技でも陸上や水泳では一つの国から3名くらい出る競技はたくさんある。これらの分野でアメリカが強いのは偶然ではないだろう。彼らは自分たちが得意なようにルールを制定したか、あるいは自国に有利なルールのスポーツに育成のリソースを注いでいるに違いない。

企業競争でも全く同じで、誰か他社が作ったルールで戦うよりは自社の作ったルールで戦う方が有利に決まっている。あるいは自社に有利なルールに業界全体を持ち込むと言うのがセオリーである。PC業界のマイクロソフト、音楽配信のアップル、自転車業界のシマノなど、こうして成功している企業は数多く存在する。

注)本稿では、確率の数式を多少いい加減に扱ったが、主旨には影響ないと思いますので、ご容赦ください。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2010年7月13日 (火)

勝利の方程式(続き:勝ちパターン)

さて、昨日の決勝戦の総括の続きである。実は、ワールドカップの始まる直前にNHKでサッカー日本代表チームの特集をシリーズでやっていた。その中の一つに日本がなぜメキシコオリンピックで銅メダルを獲得できたのかという話を取り上げており、大変興味深かった。

もともとこの話をしたいと思ったのが、関連する話として取り上げた決勝戦の話が長くなって、本論が書けなくなってしまったので、今日別項で取り上げる。

若い人は知らないと思うが、当時の日本代表はお世辞にも世界に通用するレベルではなく、オリンピックも出るのがやっただった。その日本がメキシコオリンピックで活躍を出来たのは不世出のストライカーでメキシコオリンピック得点王に輝いた釜本邦茂によることはよく知られている。当時、高校生だった私も釜本が天才だったので、銅メダルを取れたと信じていた。

ちなみに私は当時のイレブンの大半の名前がそらで言えるほど良く覚えている。それほどの輝く存在だったのである。とりわけ大好きだったのが宮本輝紀というミッドフィルダーだった。

さて本題である。ヨーロッパや南米に比べてはるかに遅れていた日本サッカー界に近代的な指導方法を持ち込んで変身させたのはドイツ人コーチのクラマーさんであることはよく知られている。

そのクラマーさんが一目惚れしたのが釜本である。何とか彼のストライカーとしての能力を活かしたい。そう考えたクラマー氏と日本のコーチ陣が目をつけたのが杉山隆一である。当時は現在のサイドバックというポジションがなく、ウィングという名前で呼ばれていたが、左サイドを駆け上がっていって、中央にセンタリングするのが仕事である。この杉山が俊足で駆け上がっていって、中央にいる釜本がシュートをするというのが日本の勝ちパターンであった。メキシコオリンピックだけでなく、日本代表戦でも何度となくこの形で得点を重ねていた。

それを見ていた私は釜本と杉山ってすごいなと思っていたわけである。ところが今回NHKの特集を見て驚いた。これは単に彼らの才能だけでなく、日本チームの総力を挙げての戦略の産物だったのである。というのも、杉山が突破していく先にはスペースがないといけない。それは当たり前であるが、そのために日本チームは杉山の前には誰も出るな、必ず場所を空けておけと指示したそうである。もちろん、敵はいるわけであるが、味方がいれば余計そこへ敵がいる可能性が高くなる。そのため少しでも空いているスペースを作るために、杉山の前には誰も出るなと指示を徹底したそうである。これでは、日本の攻撃のパターンが限られてしまって、それをつぶされたら終わりと思うが、それでもこの二人にチームの命運を託した戦略が立てられた。この二人だけが世界に通用する技術であり、攻撃力だったわけである。

こうして戦略を立てた上で、杉山と釜本には合宿所で、二人だけの居残り特訓をさせて、とにかく杉山からクロスをあげさせ、それを釜本がシュートに持って行く。そればかり、練習したという。通常の練習が済んだ後に二人だけの練習と言うから、さぞきつかったであろうと想像がつく。二人の間でも、ボールが遅いとか、正確でないとか、もっと足下に出せとか、そんなことが出来るわけがない、おまえやって見ろと言った激しいやりとりがあったという。そうした結果、二人の絶妙のコンビネーションが誕生し、実際に試合で活かされたことが銅メダルにつながったという。

ここで言いたいことは、世界で通用するにはもちろん個人レベルでの高い技術、ここでは釜本の得点能力、が必要であるが、それを支えるチーム戦術があって初めて個が生きるわけである。
そういう意味で、この釜本と杉山のコンビは作られた勝ちパターンであり、戦略の賜物であったということが出来る。

同様にスペインも「パスを回して、回して、一瞬のチャンスにスピードアップし、敵陣に切り込んでいく」という勝ちパターンが明確だったと思える今回の優勝だった。もう少し、細かいことを言えば、普段のパス回しは一人の選手がボールに2回以上触る(ツータッチ)なのに対して、ギアが入ったときはほとんどワンタッチでボールを回していくという、見ていて本当に美しいと思えるサッカーを展開していたい。準決勝のドイツが突然借りてきた猫のようになってしまったのが、まさにこの戦略にはまってしまった好例である。

企業でもまったく同様である。勝ちパターンというものを持っている企業は強い。たとえば自動車業界を例に取れば、トヨタであればカンバン方式であり、スズキ自動車のコスト競争力である。一方で、エレクトロニクス業界でいえば、アップルの商品開発力であり、サムソンの大規模投資によるコスト競争力ということになろう。

日本の国を例に取ると、今回の選挙の結果でも明らかなように、国として迷走しており、明らかにかつての勝ちパターンを失っている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

勝利の方程式

長かったワールドカップも昨日の決勝戦で終わりを迎えた。スペイン対オランダの試合は決勝戦にふさわしい素晴らしい戦いだった。

スペインは持ち味のパスを細かくつなぐサッカーでオランダを切り崩そうとし、オランダはそれを激しいあたりでつぶしに行く、またスペインの司令塔であるシャビにパスが回らないようにあるいは自由に仕事をさせないようにする。そして、機を見て速攻で逆襲する。その際に武器になるのはロッベンのドリブルによる突破とスナイデルのシュートやパスである。

オランダの戦術は、少なくとも90分の間は間違いなく機能していた。しかし、その代償も大きく、たくさんのイエローカードをもらい、結局延長戦では守備陣にレッドカードが出てしまった。

私は試合を見ながら、もし延長になったらオランダが有利なのではないかと思っていた。というのも、試合日程の関係ではオランダが中4日で決勝戦に臨んでいるのに対して、スペインは中3日しかない。当然疲労度が大きいスペインは体力的に消耗して動けなくなるのではないかと思ったからである。しかし、私の読みは間違っていた。延長になって破綻をきたしたのはオランダである。前線と守備陣の間が空きすぎて中盤でスペインが自由にボールを回し始めたのである。封じ込められていたシャビが生き返った。さらにスペインの監督の選手交代もずばり的中して、それらの選手が先制点を演出した。

120分間、自分たちの回すサッカーを追求したスペインに対して、それを止めようと普段とは違うサッカーを展開したオランダが最後に力尽きたわけである。もちろん勝敗は時の運で、ロッベンの2度の決定機が決まっていたら、試合は異なる結果に終わっていたかも知れない。しかし、戦略的にはスペインのパスを回して、いったん攻撃に移ればトップギアに入れるという戦い方がワールドカップを通じて見事に花開いていたと言えるだろう。しかもこのパス回しが滅多なことではボールを撮られない極めて技術の高い個人技に支えられていた。

非常に良いものを見せてもらった今回のワールドカップスペインチームだったと思う。

個人的に決勝戦の最優秀選手をあげればスペインのゴールキーパー「カシージャス」で決まりである。彼のスーパーセーブがなければもっと大味のドイツ・イングランドあるいはドイツ・アルゼンチンのような試合になっていただろう。次に敗者のオランダから敢闘賞をあげれば、これもキーパーのステケレンブルクである。彼も数々のスーパーセーブで試合を緊張感のある名試合に演出していたと言える。

さらに優秀選手をあげるとしたら、主審を務めたイングランドのハワード・ウェブ氏だろう。
上にも書いたようにオランダはスペインのパスサッカーを止めるためには身体を張ったプレイを連発せざるを得ず、それをいちいちまともにイエローカードを出していたら、退場者が続出して後味の悪い試合になったに違いない。一方で、カードを出さなければ両者のエキサイトが止まらず、却って悪い結果になっていたかも知れない。そのはざまで時にはイエローを出し、時には注意だけですまして試合をコントロールしていたのがウェブ氏である。前半のデヨングの足蹴りは通常であれば一発退場である。しかし、そこでイエローカードに留めたことが試合をつまらなくせずに済んだことは間違いない(スペインファンである私は、当然退場処分にしてくれと思った)。

この三者がいたことで試合が緊張感のあり、両者のチームの特色も出た素晴らしい決勝戦になった。もちろん、決勝点を入れたイニエスタも素晴らしいし、ドリブルで右サイドを突破して決勝点につながる攻撃を演出した途中出場のヘスス・ナバスやゴール前で決定機を演出したこれも途中出場のセスク・ファブレガスも素晴らしかった。ただ、彼らが輝く場を演出したこの3名に私は拍手を送りたい。

ということで、スペイン・オランダの決勝戦を振り返ったわけであるが、これに関連して言いたいことがあるのではあるが、長くなったので残りは明日にする。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2008年11月25日 (火)

商社のビジネスモデル

先月の16日に早稲田大学の井深大記念ホールで、リクルートイベントとして丸紅の朝田社長との対談を実施した。
その様子が先週の読売新聞に載ったので簡単に内容を紹介しておこう。

Kigyonavi_2

一言で言えば、商社は以前のような口銭を主体としたビジネスからビジネスモデルの変更を行い、自ら投資を行ってリスクを取る形の事業へ変貌を遂げたと言うことだ。
はやりの言葉を使えば、これまでは水平分業型の事業モデルで、メーカーや小売りの間に入って販売代理や斡旋の機能を果たしていた。それに対して、最近の商社は川上や川下に出て行くことでバリューチェーンの垂直統合を目指す形に変わりつつある。具体的には天然資源の鉱区を押さえたり、港の港湾施設を自前で持ったり、流通業のSCMを自らの設備を駆使して手伝ったりしているのがわかりやすい例であろう。
そうすることによって利幅は大きくなっているかも知れないが、リスクも大きくなっていることは言うまでもない。今後の商社はこのリスクをどうコントロールするかがきわめて重要であると朝田氏も強調していた。

もう一点、私が述べたのは商社に必要な人材はこれまでの営業マンからプロデューサーに変わってきている点である。すなわち、ものを右から左へ流す人でなく、新たなビジネスを生み出せる能力を持った人が求められていると言うことである

しかし、私が商社がすごいなと思うのは、私の大学時代から「商社冬の時代」とか「商社無用論」とか叫ばれており、何度となく同じようなことを言われながらも今日に業態として生き残っていることである。これほどまでにダメだダメだと言われながらも、依然として収益を上げ続け、就職戦線での人気もかげりを見せない、きわめて希有な存在である。そういう意味できわめて生命力の強い総合商社であるが、翻って考えてみれば、商社は人が唯一の財産であり、その人材が思う存分働ける限りは商社は輝き続けるのかも知れない。結局、商社のビジネスモデルとは、人につきるのではないか。

| | コメント (5) | トラックバック (0)

2007年11月 1日 (木)

小さな池の大きな魚

HOYAという会社が以前掲げていた戦略をご存じだろうか?それは前社長・会長を務めた鈴木哲夫氏が提唱した「大きな池の小さな魚になるより、小さな池の大きな魚になれ」というものである。ここでいう大きな池とは、市場の大きさのことを言い、小さな魚とはその中でHOYAの占める売上の大きさのことを言う。要するに市場規模の大きなところに出て行って、売上を稼ぐより、小さな池、すなわち市場規模の小さなところで圧倒的なシェアを稼げという考え方である。
その理由は、当時のHOYAは売上も小さく、大きな市場に出て行っても大企業を相手に戦うだけの体力もなく、またいざ競争になったらひとたまりもなくやられてしまうと考えたためである。
一方で、市場規模が数百億円の市場であれば、大企業から見て全く魅力のない市場で、大企業が参入してくる恐れはない。そこで200-300億円の売上を稼ぐ方が、競争相手も強くないし、自社が成功する可能性が高いと考えたのである。
なぜ大企業が進出してこないかと言えば、売上が数千億円から数兆円の大企業にとって、新規事業といえども売上は最低でも数百億円、場合によっては1千億円程度を期待されている。そのため市場規模が5百億円の市場に参入して30%のマーケットシェアをとっても150億円しか売上が立たないところには、大企業は絶対出てこないからというものである。
こうしたやり方をとることで、HOYAはオリジナルのクリスタル製品から、半導体のフォトマスク、めがねのレンズなどで強みを発揮していった。

どうしてこんなことを思い出したかと言えば、本日の日経新聞にスズキ自動車が業績好調で、主にインドやパキスタンなどの西アジアで成功していると出ていたためである。スズキといえば日本で長らく軽自動車のトップメーカーとして君臨していたのだが、その市場をトヨタ自動車系のダイハツが荒らしにかかっている。そのため、スズキは日本市場でダイハツと利益なきシェア争いをするより、大企業がまだまだ地歩を固めていないインド市場(そこではスズキが50%のマーケットシェアを持っている)に力を入れているのだろうなと感じたからである。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧