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2008年8月 3日 (日)

天狗の鼻をへし折られる

ハーバードビジネススクールのケースメソッドのトレーニングは、今日ですべてのプログラムが終了したのだが、本当に勉強になった。
正直言って、日本でケースメソッドで教えるのがうまいと思って天狗になっていた自分が恥ずかしくなった。(少しだけ言い訳すると、どこの大学(東大、青山、早稲田)で教えても学生のフィードバックによる評価はとても高いのです。)でも井の中の蛙だと言うことがよく分かりました。

何が勉強になったかと言って、授業に臨む前の準備のすごさである。
逆に言えば講義そのものの進め方よりも、その奥に潜んでいる思考や準備の深さに驚いたのであう。

書き出すときりがないが、たとえば全てのケースの講義の1週間前には同じ科目を担当する先生が集まって、どんな風にクラスを運営するかを打ち合わせる。これは同じ科目を教える先生が数人いるから出来ることであると言ってしまえばそれまでだが、去年と同じケースを教えるとしてもまた45-60分かけて中身を検討するというからすごい。もちろん個人はそのミーティングの前に準備してくるわけだ。

さらに一つの科目を設計する準備も用意周到だ。自分がこの科目で何を教えたいのか、それをどんなケースを使ったらうまくいくのか、もしそれにふさわしいケースがないとしたらどんなケースを書くべきかなどをきわめてシステマチックに考える。ある先生はケースの寿命は3-5年で、そのたびに新しいケースを書くか別のケースを探すと言っていた。これもすごい。
ケースを書くのもどうも1年がかりでやっているようだ。さらにそれを自分の専門分野の研究とどう結びつけていくかをテーマとした講義もあった。研究者としてリサーチばかりやってきて、実務経験のない教育者のためのテーマだったので私にはあまりフィットしなかったが、それでも彼らがケースライティングにかける情熱が伝わってきて感心した。

また、コース(日本で言う科目)が始まる前には生徒のバックグラウンドをすべて調べておくという。そうすることによって講義の質が高まるのだという。たとえば、金融のケースをやるときに一番最初のモルガンスタンレーでアソシエイトをやっていた生徒を指してしまうとクラスのほかの生徒がついて行けなくなる。逆に、クラスの中で金融に関する知識が必要なときや、普通の生徒では答えられなくなったときに専門家の生徒を指名するという。
学生のバックグラウンドを教師が調べておくのはスタンフォードビジネススクールでも同じだったな(以前エグゼクティブプログラムに参加したことがある)。あのときは顧客サービスかと思っていたのだが、そうではないことが分かってうなってしまった。

さらにクラスが始まってからも、どの学生にどんな質問をして、どんな答えが出そうかをすべて事前に考えているという。それに比べると私は、行き当たりばったりだったなと痛く反省している。もちろん、事前にどんなテーマをどれくらいの時間使って議論するかは私も考えているのだが、こちらでは時間割(90分を5分ー15分刻みでスケジュールしている)を作った上で、それぞれのセッションでの質問をあらかじめ考えておくと言うから、芝居の演出のようだ。
実際講義の進め方も役者のようである。それぞれ個性があって、スタイルは違うが、中には芝居の達人や落語の名人の芸を見ているような教師もいた。

またクラスで発言した学生は講義終了時にはきちんとチェックして成績をつける時の判断材料にすると言う。90人いるクラスで、毎回30-35人いて、それを覚えておいてチェックすると言うからたいしたものだ。さらに2-3回発言がなかった学生はその次のクラスで指名して発言をさせたりする。うーん、システマチック(私には出来そうもない)。

来てよかったなと思うと同時にケースメソッドの奥の深さを改めて学んだ1週間だった。イヤー、本当に勉強になりました。
送ってくれた早稲田大学よありがとう、こうしたプログラムを用意してくれているHBSよありがとう。
さあー秋学期からの講義にどれだけ取り入れることが出来るか、自分でも楽しみだ。受講生は乞うご期待と言っておこう。

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コメント

二ちょうさんへ

そうですよね。自分には自分のスタイルがあるので、それを生かした方が良いなと思っています。
コンサルタントとしては、ある程度のところまで行ったと自負していますが、教育者としてはまだまだなので、さらに精進を続けたいと思っています。

投稿: 内田和成 | 2008年8月24日 (日) 00時38分

ビジネススクールのケーススタディにもいろいろなタイプがあるように、ダンディのスタイルも「一様でない」ようにおもいます。たとえば、先生が雑誌「財界」(存在に三鬼陽之助さんのソウルを感じます)の表紙に出演されたら、途端にAppleの広告みたいで、新鮮におもいます。ちょうど、本屋さんの雑誌コーナーはその街の文化に連動しているみたいって思っていたところでした。
個人的にはそんな表現も楽しんでいただきたいところですが、ただ、先生が先にオーストラリアで撮影された映像はなんだかわくわくしました。比嘉愛美さんの動画ブログをみて、これはたしかに素敵なことになりそう!とおもいました。スコープやターゲットなどの捉えは映像にも戦略にも通じている方法なのが興味深くおもいます。
先生、ありがとうございます。先生が教育者であることに感謝します。そして、これからもますます楽しみにしています☆

投稿: 二ちょう | 2008年8月11日 (月) 23時50分

heraさんへ

私のモットーの一つは、実るほどに頭を垂れる稲穂かなです。
頭を下げれば下げるほど、さらにいろいろなことが学べます。相手もいろいろうれしそうに教えてくれますし、一石二鳥です。

投稿: 内田和成 | 2008年8月 6日 (水) 23時26分

ちょうさんへ

ビジネススクールのケーススタディにもいろいろなタイプがあるように、ブログのスタイルにもいろいろあるということですね。
私もこれが確立したスタイルとは思っていないので、今後もいろいろなことをやっていきたいと思っています。
NHKの連続ドラマに出ていた比嘉愛未さんが動画ブログというのをやっていて、これも良いなと思いました。ただ、私の場合は人様に見せるような面ではないので、私の見たものを写真ではなく、動画で表すと言うことになりそうですが。

投稿: 内田和成 | 2008年8月 6日 (水) 23時24分

「天狗の鼻をへし折られる」というタイトルに驚かされました。
BCGという、戦略ファームのトップを勤めた人が、
謙虚にコメントする。

その謙虚さにただただ、内田さんのすごさを感じました。

投稿: hera | 2008年8月 5日 (火) 12時19分

ボストン出身のひとと音楽について語り込んでしまったことを思い出しました。ボストンは、魅力的で素敵な街ですね。また、アメリカ出身の元プログラマーのひとが、自転車便のスタイルを「CoolでFashionableな態度だ」といっていたことを思い出しました。システムもいろいろな形があっておもしろいなとおもいます。
先生の手法のおもしろさは、個人的には、ポップで実験的なところだと思います。わいわいと人々が交流する雰囲気つくりは素敵です。一方で、発言力のある先生が深淵な思考の重要性を提示されるのは、まさに今、望まれるところではないかと慮ります。
先の御手洗会長の講義でのおはなし(「経営は合理的であるべき、しかし一様ではない」)の文脈論理にもなりそうなおはなしだとおもいました。今後のおはなしを楽しみにしています。

投稿: ちょう | 2008年8月 3日 (日) 17時59分

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