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2007年9月12日 (水)

情報とはマイナスのエントロピーである

昨日の話と似た「情報とはマイナスのエントロピーである」という話がある。昔、情報理論の専門家から聞いた話であるが、一言で言えば、優れた情報というのは不確実性を減らすことが出来るという話で、新しい情報を追加するものではないという話である。

エントロピーというのは、元々熱力学の用語で、簡単に説明すれば物質やエネルギーの乱雑度合いや偏り具合を表す。状態が無秩序で混乱したり、不確実性が高いことをエントロピーが高いと言い、逆に状態が整然としていたり、確実な状態であることをエントロピーが低いという。

これを情報理論に当てはめてエントロピーを「事象の不確かさ」と定義すると、ある情報によってその不確かさが減少すれば、その情報に意味があるということになる。これを情報とはエントロピーを減少させる方向に働くという意味で、「マイナスのエントロピー」と定義しているわけである。

難しい話はこれくらいにして、これをビジネスの世界に応用すると、優れた情報というのは選択肢が多いとき、すなわち複雑性が高いときに、その選択肢の幅を狭めてくれるものと言うことになる。
具体的に言えば、企業が抱えているある課題を解決するための選択肢(オプション)がABCと3つある時に、Bというのは効果がないのでやめた方がよいとか、Cは仮にXという事態が発生したときにこんなリスクがあると言った情報のことである。こうした情報が入ることで、選択肢からBは外したり、Cの優先順位を低くしたり出来るためにより的確にかつ素早い意思決定が出来ることになる。
逆にABCに加えてDという選択しもあるのではないかとか、Dを検討した方が良いという情報は選択の幅を広げてしまうので、エントロピーを高くしてしまう。もちろん、本当にABCでは不十分で、新たな選択肢を検討しなくてはいけない場合は別として、十分検討してきた最後の段階で、Dを持ち出すような上司は経営者失格である。でも世の中にはこういう上司って多いですよね。それなら最初から検討に加えておくべきですね。

話は多少脱線したが、私が言いたいことは、皆さんがもし情報というのは多ければ多いほどよいと考えていると、昨日のプロ野球のバッターみたいなことになってしまいますよ。それより、何をやめるのか、捨てるのかといった視点で情報を集める努力をしてみたらいかがですかという話です。

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コメント

しばらくPCに触れず、お礼が遅れたことをお詫びします。早速、推薦いただいた本をアマゾンで購入してみました。佐々木さん以外のものは読んだことがないので、とても楽しみです。どうもありがとうございます。

投稿: すいか | 2007年11月13日 (火) 19時35分

すいかさんへ

確かにサーチエンジンは、情報の選択すなわちマイナスのエントロピーに役に立つという風に見ることが出来ますね。一方で、下手に使うとどんどん情報が増えてしまって、エントロピーがさらに高くなってしまうという負の効果もあり得ます。
いずれにしても、情報を捨てる思考法が重要という点では全く同感です。

情報についての書籍の話ですが、技術的な本では、ちょっと古いですが、インプレス社から出ているWeb2.0BOOKが大変勉強になりました。私のようにビジネス中心の思考法の人間が読むとうまい具合に触発されます。
また、技術的な本ではないですが、ネットについては佐々木俊尚さんの書いた「グーグルGoogle」と「ネットvs.リアルの衝突」が大変示唆に富んでいておもしろかったです。
また、情報と意思決定についてはやや堅い本ですが印南 一路さんの「すぐれた意思決定―判断と選択の心理学」が大変参考になります。

投稿: 内田和成 | 2007年10月 1日 (月) 15時31分

そういえば、サーチエンジンの仕組みはエントロピーの減少だと言えますね(膨大な選択可能な情報の中から、要らないと思われる情報を捨ててあげる作業)。エントロピーという視点から見ると、爆発的に普及したのもわかる気がします。

価値観の多様化と情報の氾濫の中で、選択肢を捨てる技術はいろいろな分野で重要になってくるのでしょうか。日常生活でも意識してみたいと思います。
蛇足ですが、情報について考えていくと、私もどうもエントロピーや複雑系、オートポイエーシスといった自然科学の方面へ興味が移っていきます。お勧めの本などあったら教えていただけると嬉しいです。いつもウェブの話しばかりになってしまって申し訳ありません。

投稿: すいか | 2007年9月28日 (金) 11時02分

西田さんへ

コメントありがとうございます。そうですね。自分のことは自分で反省して、直せても人のこと、とりわけ上司のこととなると注意するのは難しいし、言っても効果がないことがあり得ますよね。
私の仮説思考(本)の中にも自分とあわない上司に遭遇した場合、どう処するかという議論を仮想でしてみたらよいですよと提案しました。

投稿: 内田和成 | 2007年9月27日 (木) 23時59分

並列列挙の話に引き続き、読みながら思わず「その通り!」と言いたくなってしまいました。この話を読んで、ドッキとした世の中の管理職は、きっとたくさんいることと思います。実は、そういう自分も、管理職ではありませんが、まったく思い当たる節がない訳ではありません。過去のそういう経験を経て、捨てることの大切さ学び、そしして、今は、外野のエントロピーの低い情報に踊らされず、取り組むこことの難しさを実感しているところです。
社員が並列列挙型経営者につける良い薬があったらいいのですが・・。

投稿: 西田 岳 | 2007年9月22日 (土) 00時40分

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