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2007年2月

2007年2月28日 (水)

経営は勘(続編)

先日、こんなメールをいただきました。了解を得て、全文紹介します。2月16日にアカデミーヒルズで行った「論点思考」と題した講演の受講者の方です。

『先週金曜日の『Think!』提携講座:内田和成の論点思考を受講した小川と申します。

講義を受けて、本当に面白い講演だったと思い、終了後に名刺交換させていただいた者ですが、その時も、何がすばらしかったのかはっきりと言葉で表す事が出来ず、もやもやした気持ちが残っていました。

ところが、帰りの電車の中ではたと気がついて、是非報告したいと思ってメールさせていただきました。

私自身、よく考えてみると、かなり「右能タイプ」の人間で、個人的に重要な決断(就職、結婚から始まって、車の購入の決断に至るまで)は全て、直感的に行って来ました。ところが、仕事に関しては、「そんないい加減が事は許されない」、「網羅的、定量的、解析的」に検討して結論を出さなければならないという「強迫観念」に縛られて、潜在意識の中で「こんな無駄な事を」と思いながら、根性で仕事を進めていたのだという事に気づいたのです。

先生のお話を聞いて、心の中で共鳴するものを感じたのも、「右脳」の働きだと思いますが、質問コーナーで、「間違った方向に進む事もあるかもしれないが、まわりの経験豊かな人のアドバイスを受ける事も出来るし、この思考方法繰り返す事で正しい答えにたどり着く確率が高くなる」というお答えをいただき、ついに腑に落ちたのだと思います。

直感力(あるいは洞察力)は、いい加減な物ではなく、訓練を積む事で「鍛える」事ができるという事を教えていただき、本当にありがとうございます。

これからは、もっともっと、右脳を鍛える事に挑戦して行きたいと思います。
すばらしい講義をありがとうございました。』

私も小川さんに近いことをやってました。それはプライベートライフでは直感重視で暮らしているのに、仕事になると論理的でなくてはいけないと思いこみ、結構無理をしていたと思います。ある時から、直感を重視し、それを理論的に説明するように考えたり、あるいはどうやったら検証で出来るかを考えるようになって、楽になりました。楽になるというのは気持ちの上だけでなく仕事量も減りました。

皆さんはどうなんでしょう?

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2007年2月27日 (火)

情報の達人

昨日発売になった、ビジネス誌のプレジデント最新号(2007.3.19号)の特集「情報の達人」で私のことが取り上げられました。

President

最近、情報活用方法や考え方についての取材を受けることが多いのですが、私の主張は一貫してアナログ情報の重要性を説くものです。詳細はプレジデント誌の記事を読んでもらうとして、インターネットなどで簡単に情報検索できる時代だからこそ、自分だけにしか手に入らない情報を入手・活用する必要があり、そのためにはデジタルではダメでアナログが重要だというものです。
なぜなら、デジタルで検索すれば誰もが同じ情報を入手し、さらにエクセルやパワーポイントで加工すれば、見かけは異なっても内容的にほとんど変わりのないレポートが出来上がってしまいます。だからこそ、どこかの段階にアナログの思考や作業を入れて自分のオリジナリティを出す必要があると思うのです。

ただしアナログで収集したものをすべて整理したり、ファイルしたり、さらにデジタル化するという作業は労力の割にリターンが少ないのでお勧めしません。私のやり方は集めた情報はとりあえず放置して、熟成を待つというやり方です。

具体的なやり方は後日紹介したいと思いますが、私は20の引き出しというバーチャルなやり方と袋ファイルという原始的なファイリングのやり方の併用でカバーしています。

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2007年2月26日 (月)

企業にスターは必要か

スポーツジャーナリストの二宮清純氏は私のお気に入りの作家である。
コンサルタント必読書の「勝者の思考法」など、数多くの著作を世に出しているが、今日は彼が週刊ダイヤモンドに連載中のコラム「勝負のバランスシート」からである。

最新号である2007年3月3日号のタイトルは「スター不在を放置する球団は”お薦めネタ”のない寿司屋」という刺激的なもので、中身は最近のプロ野球球団で客を呼べるスター選手を持たない球団は、お薦めのネタを持たない寿司屋と一緒で客が足を運んでくれない。だから職務怠慢であるという主張している。たとえば横浜球団には巨人から移籍した43歳の工藤公康がいる。あの年で頑張っているなということになって客を呼べるそうである。それに対して、ヤクルトには岩村が抜けた後のスターがいないと言っている。私はサッカーフリークで野球のことはよく知らないので、結果がその通りになるかどうか分からないが彼の主張には共感できる部分がある。

この話が企業に当てはまるかどうかだが、私の考えはイエスである。確かに業績の良い企業やマスコミで何かと話題なる企業にはスター経営者がいる。トヨタ自動車であれば、この間まで社長・会長を務めた奥田碩さん、業績絶好調のキヤノンの御手洗氏などである。あるいはインスタントラーメンの日清食品にも安藤百福さんがいた。
しかし、企業の場合は人間以上にスター商品、すなわちヒット商品やユニークな商品を持つかどうかが重要なのではないかと考える。たとえば最近の例で言えば、アップルである。本業のパソコン事業ではウィンドウズパソコンに完敗し、会社存続の危機もあったほどである。ところが、iPodというヒット商品が出て、会社全体が生き返った。一方でソニーである。かつてはウォークマンやプレーステーションというヒット商品で世の中に元気を与え続け、多くの固定ファンをつかんでいた。しかし、今のソニーからは残念ながら新しいスター商品が出てこない。これではソニーという企業は存在意義をなくしてしまう。

もちろん、BtoBの産業財の会社にヒット商品は必要ないのではという意見もあろう。しかし、産業財の場合は世の中全体に知られているヒット商品である必要はなく、その業界・顧客にのみ支持されているヒット商品があればそれでよいのではと考える。
考えてみれば、コンサルティング会社も一緒でかつての大前研一さんや堀紘一さんのようなスターか、あるいはこのサービス、このテーマだったら誰にも負けないというヒット商品が必要で、そのどちらもないコンサルティング会社は苦労するのではないだろうか。

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2007年2月25日 (日)

事件は会議室で起きているんじゃない

日経新聞の最終ページにある私の履歴書は大好きで毎日目を通している。特に経営者が自分の経営哲学を語っている部分には経営のヒント、リーダーの心構えが満載である。さらに堺屋太一さんの連載小説「世界を創った男チンギス・ハン」も大変興味深く、最近は日経新聞を最終面から読むことが多くなった。

今月の私の履歴書は、“ぴちょんくん”のエアコンで知られるのダイキン工業の会長である井上礼之氏であるが、今日2月25日分になるほどその通りという記載があったので紹介しよう。

ちょっと長いがそのまま引用する。一番最後の所に、「経営者は変化の波打ち際である現場に出て、その予兆を的確にとらえ、競争相手より常に半歩先を行く決断をしなければならない。そのためには自ら現場の第一線に入り込んで情報を共有しながら変化に応じて素早く判断し、実行に移す。私はそれができる柔軟な企業体質の構築に今も努力している。」とある。全く同感である。

私も経営において大事なのは現場だと思っている。リーダーともなるとついつい社長室でものを考え、大所高所の視点でものを見るために現場目線を忘れがちになる。そのためトップの方々に、現場で何が起きているか、それがどんな意味を持っているのかを伝えることが、しばしばコンサルタントの大事な仕事になる。

同様に経営コンサルタントにとっても、顧客の現場を訪れ、そこで何が起きているかを見聞きすることが基本中の基本となる。ついつい現場を忘れて、本社からもらったデータを分析して事足れりとするコンサルタントが出現する。そんなとき私が口にする言葉は、TVと映画で大ヒットした「踊る大捜査線」の決まり文句「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きてるんだ!」をもじった、「事件は本社で起きているんじゃない。現場で起きているんだ!」である。コンサルタントが必ず現場を見た上で結論を出すようにアドバイスしている。

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ありがとう英辞郎

ちょっと英単語の意味が分からないとか、日本語を英語に訳したいとか思ったときにとても重宝しているパソコン上の辞書がある。自宅のPC、大学のPC、オフィスのPC、携帯用のPCなどすべてのPCにインストールしてある。

英辞郎(えいじろう)という名の辞書だ。現役の翻訳家や通訳の人たちがこれまでコツコツと貯め込んできた英和・和英辞書である。正確に言うと英辞郎は単なる辞書データベースで、これを辞書として使うにはPDIC(ピーディク)と呼ぶソフトが別に必要になる。

何が優れているかと言って、まず早くて簡単である。全部のスペルを入れなくても頭から文字を入れていくとどんどん該当する単語が出てくる。インクリメンタルサーという手法で、スペルを全部覚えていなくても大丈夫である。また、日本語も適当に漢字を入れればこれもどんどん該当する言葉とその英語訳が出てくる。ちなみに英和と和英が同じPDICで使えるので、両者を切り替える必要がなく一つのウィンドウに英語でも日本でも好きな方を入れられるのも便利である。

次にとにかく語数が多い。最新バージョンでは英語の項目だけで150万項目もある。普通の辞書の10倍くらいはありそうだ。また、日々増殖している。7-8年前に私が使い出した頃は数十万しかなかったのが倍以上になっている。したがって、新しい単語もどんどん収録されている。完成することはなく、常に進化し続けるそうである。

ただし、出版社の辞書と違って、単語の訳に重要度とか頻出度とか言った目安は全くない。また、文脈に応じてどう使い分けるのかの説明も一切ない。どれが自分の訳にふさわしいかはすべて自分で判断する必要がある。したがって、英語に全く自信がない人には向かない。ちょっと単語を思い出したいとか、他に気の利いた表現はないかといった使い方に最適である。まあ、英語で飯を食っている人たちが作っているので、当然といえば当然かもしれない。

私は最新版は出版されている本の形で購入したが、オンラインでダウンロードも可能である。

Eijiro3

インターネットからのダウンロードを希望する方は、以下のサイトを参照してみるとよいでしょう。
http://www.eijiro.jp/e/index.htm

Web版の英辞郎はALC社のサイトから無料で利用できるので、まずこちらで試してみるのもよいかもしれません。以下のサイトにある「英辞郎 on the Web」というウィンドウに英語でも日本語でも好きな単語を入れてみてください。
http://www.alc.co.jp/
ただし、PCにインストールするものと比べると、インクリメンタルサーチができないなど機能面ではやや劣ります。しかし、自分のPCにインストールしなくても、インターネット環境さえあればどこでも使える分、簡単・便利です。

まあ、この辞書も百聞は一見にしかずで、自分で実際に使ってみるとその便利さがよく分かると思います。既に使っている方がいたら、是非コメントお願いします。

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2007年2月24日 (土)

マイクロソフトはなぜグーグルを恐れるのか(続編)

本日(23日)の夕刊に、グーグルが企業向けの有料ソフトウエア提供を始めるという話が載っていた。

先日紹介したGoogle Docs&Spreadsheetsを大企業向けに有料化して提供するというものです。まだお読みになっていない方は、バックナンバー「マイクロソフトはなぜグーグルを恐れるのか(上、中、下)」(1月14-15日)をご覧ください。

グーグルでは初めての有料サービスではないかと思います。これまですべてのサービスを無料で提供してきたグーグルの大方針転換です。
私はこのままではうまくいかないのではないかと思います。無料だからこそ、多少欠陥があっても、機能が劣っても使われれるのであって、現在のレベルではお金に値しないのではないかと思うからです。もちろん、一人当たり50$という価格はマイクロソフトのオフィスの数百ドルよりは遙かに安いのですが・・・。

@IT の NewsInsight というサイトでは、有料のGoogle Apps はマイクロソフト・オフィスに対抗するキラーアプリケーションになるという意見を紹介しています。

http://www.atmarkit.co.jp/news/200702/23/eweek.html

こちらも参考にしてみるとおもしろいと思います。

今日まで、早稲田大学では入学試験が続いており、私も忙しい毎日を過ごしていました。今日の更新が遅れたのもそのせいです。

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2007年2月22日 (木)

バリューチェーンで見る(5)

デジカメ業界の第4弾は、携帯カメラの登場である。
携帯カメラで一番変わったのは、写真をメールで送るのが主目的になったということであろう。従来の写真はまず自分で現像し、保存し、閲覧するのが目的で、他人へは焼き増しという形で追加的にあげるというのが普通であった。しかし写メールという言葉に代表されるように、当初の携帯カメラは写した写真を他人へ送るのが主たる目的であった。したがって、いったん送信した写真は保存されないか、されたとしてもやがて削除されるのが普通である。
こうなるととても写真とカメラとか呼べるものではないし、実際解像度も普通のデジカメの1/10程度でとてもプリントアウトに耐えるものではなかった。

Mobilecamera

しかし、これも技術革新が進むにつれて、解像度が普通のデジカメに近い数百万画素のものやオートフォーカスのできのよいものも現れて、もう少しで普通のデジカメに遜色ないところに行きそうである。ストロボが装備され、2-3倍のズームレンズが着けば通常使用のデジカメとしては申し分ないであろう。
そうなると、携帯カメラとデジカメを2台別々に持ち歩く人はいなくなってしまうかもしれない。そうなったときに携帯電話を製造していない、キヤノン、ニコン、富士フイルムなどはどうするのだろうか。デジカメの世界に地殻変動が起きるのであろうか、それともデジカメと携帯カメラは、普通のカメラと使い捨てカメラがそうであったように、仲良く棲み分けるのであろうか。興味津々である。

今回でとりあえず、バリューチェーンで異業種格闘技を見るアプローチはおしまいにしますが、皆さんも是非自分の業界でバリューチェーンを書いてみてください。
そして、どんなものを書いたか教えてください。よろしくお願いします。

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2007年2月21日 (水)

日本一ベンツを売る男

昨日と同じ本からの抜粋である。p68に以下のようなくだりがある。「お客さまとセールスマンという立場をわきまえた上でのことですが”対等な目線”で接するというのが、もっとも大事だと思っています。
メルセデスという車が、頭を下げてまでして売るような商品ではないということも大きく働いているのでしょうが、それ以上に、私には、お客さまよりも車に精通し、その方の好みにあるメルセデスを提供できる自信があるからです」
また、別の箇所に「・・・媚びを売れば売るほど、お客さんとの関係は離れていってしまうもの。使い走りになってしまっては、いい付き合いはできない。礼儀も尽くしますが、どんな人とでも、同じ目線で、ということを肝に銘じていました。」(p161)とある。
どちらも車のセールスマンだからといって相手に卑下することなく、顧客と対等な立場で接することが顧客のためにもなり、関係も長続きするというメッセージである。

実は、全く違う文脈から私も似たようなことをコンサルタントに言い続けてきました。それは、顧客と接するときに、「顧客とは同じ目線で話をせよ、ただし視座は高く、視野は広く」というものです。私が視線を顧客と対等にといっているのは、コンサルタントは放っておくと自分が偉いと勘違いして、本人は意識していなくても顧客を見下す態度が相手に分かってしまうことがある。こうなるとうまくいかない。顧客と長続きする関係を続けたければ、顧客と同じ目線でものを見る、すなわち顧客と同じ感覚で課題を理解する、人々の悩みを感じ取る、実行の困難さに気づくなどが重要である。
しかし、これだけで終わってしまっては、彼らの同僚や友人と変わりがなくとても高い金は取れない。コンサルティング料を高くないと思ってもらうためには、顧客よりもっと高い視点でものを見る力が必要である。それによって顧客が毎日の仕事に埋没しているところから助け出すことのできるものの見方や解決策を提供できる。ただし、し、その場合も単に高い視点だけでなく、前から、後ろから、横から、斜めからといったように幅広い視点での見方、すなわち広い視野が必要となる。
こうした私の考えは汎用性があるなと裏付けることがで来た点でも価値ある本でした。

これ以外にも「セールスマンが自分に投資したり、努力したりすることは、とても大事なことだと思っています。そこには一切の無駄はありません。」(p45)とか、「客にとってのサプライズとは、その人が予想していることを、少しでも超えたものを提供したときに、感動し、満足してもらえたかどうかにかかってくる。」(p56)など、大変参考になるコメントが載っている印象に残った本でした。もっと詳しく知りたい方は是非、現物をお読みください。

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2007年2月20日 (火)

本がおもしろくて、電車を乗り過ごしました。

今朝、読んでいた本に夢中になって駅を降り損なってオフィスに遅れてしまいました。前島太一さんの書いた「日本一メルセデス・ベンツを売る男」という本です。
1994年から2003年まで10年連続で日本で一番たくさんメルセデス・ベンツを売ったメルセデスベンツ麻布のセールスマン・吉田満さんについて書かれた本です。自慢話やどうかなという話も多いのですが、それでも圧倒的な迫力とユニークさで一気に読んでしまいました。

私は、いわゆるハウツー本を読むのが好きである。なぜかというと、そこに書いてある表面的なスキルに興味があるのではなく、その中からビジネスの本質を学べることが多いからである。

この本の中から気に入ったフレーズを紹介しましょう。
p24に「セールスマンにとって、達成感をもてる瞬間は、商談成立の時かもしれない。しかし、吉田がもっとも満ち足りる瞬間は、客に新車を届ける納車の時だという。」とある。彼は、普通のセールスマンと違って、顧客第一主義を徹底している。顧客のためなら、自分の所属する会社と戦いもするという。その彼が一番うれしいのは自分が売上げを上げたときではなく、顧客が一番喜んだ瞬間すなわち顧客が自分の買った車を受け取ったときとなるとのことだ。
これはコンサルティングでも全く同じだと思った。コンサルタントにとってプロジェクトが売れた時や、プロジェクトの最終報告がうまくいってお客さんが満足してくれた瞬間はとてもうれしい。しかし、実はこれは顧客が一番うれしい時とは違っているということは、長年の経験で私も実感している。
では、顧客が一番うれしい時がいつかと言えば、それはプロジェクトの提言を実際に経営や現場で実行に移して、それがうまくいき成果を上げた時である。コンサルティングが成功したかどうかもそこで判断すべきである。ちなみに、こうした顧客の成功を喜びと感じられるコンサルタントは長続きする。
しかし、私は顧客のトップがもっとうれしそうにする瞬間を知っている。それは、自社の社員がコンサルティングプロジェクトを通じて、明らかに成長したことをトップが感じ取ったときである。私自身そういうコンサルティングを心がけてきたが、結果がそうなったかどうかは、私の判断よりは私のお客さんの判断にゆだねるべきであろう。

皆さんの会社の仕事に関連して、お客さんが一番喜ぶことって何でしょう。本当に分かっているかどうか、考えてみる価値はあると思います。

明日もこの本から、もう一つテーマを取り上げたいと思っています。

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2007年2月19日 (月)

Great Place to Work (働きがいのある会社)

本日発売の日経ビジネス最新号に「働きがいのある会社」特集が載っている。アメリカのGreat Place to Work(GPTW)という組織が日本企業対象に行った調査の結果である。
その日本版ランキングで栄えある1位に輝いたのがリクルートエージェントという会社である。私のゼミ生の一人が勤務する会社である。人の会社ではあるが、うれしい結果である。ちなみに2位から5位までは外資系企業でした。

何をもって働きがいとするかは大変難しいが、この調査では信用:従業員を経営者が信用しているか、尊敬:経営陣が従業員を大切な人として尊敬しているか、公正:適切な評価や処遇がされているか、連帯感:自分の所属する組織に連帯感があるか、誇り:従業員が自分の仕事や会社、商品・サービスに誇りを持っているかの5項目を評価している。

これはこれでよいのだが、もっと簡単な言葉で働きがいのある会社を語れないものだろうか?
たとえばBCGでも、毎年従業員の満足度調査をやっている。その中で私が良いなと思っている質問がある。
「自分が、今の会社に入った後に知ったことを入社前に知っていたとして、やっぱりこの会社に入りますか」という質問である。
あるいは、これに近いのが「自分の大変仲のよい友達や家族にこの会社への入社を勧めますか」というものもある。
社員がこうした質問に自信を持って「Yes」と言える会社を目指したいものである。

皆さんの考える「GPTW」とは何でしょう。是非考えをお聞かせください。

追伸 日経ビジネスの特集ではアメリカ版GPTWが載っているが、そちらのベストテンは見てのお楽しみ。

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2007年2月18日 (日)

バリューチェーンで見る(4)

前回の続きで、カメラ業界の異業種格闘技をバリューチェーンで見てみよう。
使い捨てカメラの次に起こった第2弾の変化が、通称ミニラボと呼ばれる技術革新である。この結果、従来は写真の現像といえば早くて丸一日、だいたい2日はかかっていたものが30分から1時間で出来るようになってしまった。そのからくりは、きわめて小型のフイルム現像&焼き付けの機械が低価格で提供されたことにある。その結果、従来当たり前だった、町のクリーニングや小売店、CVSなど数多くの現像取次所から集めた撮影済みのフイルムを大規模な現像所に集めてそこで現像・焼き付け後に取次所に戻すというプロセスが全く不要になってしまった。町のそこかしこに置かれた間口数メートルの小さな店舗の中で現像から焼き付けまで、それも30分程度でこなすことが出来るようになったためである。
取り次ぎと現像所が不要になってしまった。消費者サイドの利便性は増したが、現像所やDPEの取り次ぎはシェアを大きく減らすことになった。

Digitalcamera

第3弾の変化は、皆さんの想像通り、デジタルカメラ(デジカメ)の登場である。これはいろいろな意味で革命的な変化で、カメラ業界がガラガラポンで変わってしまった。
まずカメラがアナログからデジタルに変わり、その結果フイルムが不要になってしまった。そしてフイルム代わりに使われるのが何度も使用可能なメモリーカードである。この結果、従来のカメラメーカーとは全く異なる業界の電機業界から多数の新規参入が起きた。カシオ、ソニー、松下などである。
さらに現像も大きく変わった。一言で言えば現像が不要になってしまったのである。また焼き付けはパソコンとプリンタを使って自分でやるのが普通になり、現像所に頼むのは少数派になってしまった。さらに、もっと進んだ使い方としては、一度もプリントせずにパソコンに保存したままで必要なときに画面で見るだけといった方法も登場した。この場合はアルバムすら不要になってしまう。
私のように小さい頃からフイルムのカメラになじんで、写真といえば必ず印画紙に焼き付けし、アルバムに貼って保存するものと決めた人間からは、考えられない使い方である。
この段階になると、従来のカメラメーカーとフイルムメーカーが棲み分けて、現像所と一緒になって作っていたバリューチェーンは跡形もなくなり、メモリーカードメーカー、デジカメメーカー、プリンタメーカー、パソコンメーカーがバリューチェーンを構成するようになったのである。

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2007年2月17日 (土)

経営は最後は「勘」?

昨晩は、アカデミーヒルズの講演会で、「論点思考」について話をしてきました。
ブログの読者の方にもたくさん来ていただいたようで、お陰様で会場は満席でした。どうもありがとうございました。申し込んだのに満席で断られてしまった方、ごめんなさい。

論点思考はまだまだ発展途上のコンセプトなので、右脳的な話に終始しましたが、おおむね好意的に受け取ってもらえたようです。
「当たりをつける」、「筋の良し悪し」の二点については、いくつか方法論や眼の付け方などを説明したのですが、不十分だったようで、いろいろな質問が出ました。特にその具体的な方法や判断基準について聞かれました。これらはまだ、きちんと体系化できないので、暗黙知の形式知化にもう少し思考と作業が必要なことを痛感しました。聴衆の皆様、アドバイスありがとうございました。

さらに、昨日はほとんど触れることは出来ませんでしたが、経営における次なるテーマとして「勘」の問題をどう整理するか、あるいは最後は「運」というテーマをどう捌くかというのが重要だと言うことを認識しました。
この問題について、皆さんの考えを教えてください。企業経営や日常の仕事の中で、皆さんは勘とか運とかをどうマネジされているのでしょうか?大変興味があります。
ちなみに私は、経営は最後は勘だと思っています。なぜ、そう言えるのかというと、今はまだ勘(すなわち仮説の段階)です。いつかは解明したいなと思っています。

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2007年2月16日 (金)

トロイアの発見は仮説思考から

日本ではトロイの木馬の話で有名であり、伝説上の国家で実在しないと言われていたトロイア。その遺跡を実際に発見してその存在を世に知らしめたことで有名なシュリーマンの自伝「古代への情熱」の中におもしろい一説があった。ご承知のようにシュリーマンは小さいときに聞かされたホメロスの叙事詩「イリアス」や「オデュッセイア」を作り話ではなく実際にあった話だと思いこんで、後年トロイア(トロイ)の遺跡を発掘することに成功した。
その内容が自伝風に書かれたものが「古代への情熱」である。その中の一説に下記の文章がある。少し長いがそのまま引用する。
「シュリーマンが調査を始めるときに」と、フィルヒョーは書いた。「正しい前提から出発したか、それとも誤った前提から出発したかということは、今日では無意味な問いである。成功によって彼が正しいと判定されただけではなく、彼の調査の方法も正しかったことが実証されたのだ。彼の前提は大胆にすぎた。いや恣意的であったかも知れないし、あの不滅の詩の繰り広げる魅惑的な画像が彼の空想力をとろかしすぎたかもしれない。しかし、この心情の欠点、これを欠点と言ってよければだが、この中にも彼の成功の秘密もひそんでいたのである。確かな、いや熱狂的な信念につらぬかれたこの人を除いて、一体だれが、長年にわたるああいう大事業を企て、私財からああも莫大の資金を投じ、果てしなく積み重なっているように見える廃墟の層を掘りぬいて、はるか下に横たわる原地盤に到達したであろうか。もしも空想力にスコップが動かされなかったら、焼けた町は今日なお地中深く埋もれているであろう」
出所:新潮文庫「古代への情熱」p119
この文章の「前提」を「仮説」に置き換えると、シュリーマンはまさに仮説思考の男だったといえるのではないだろうか。

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バリューチェーンで見る(3)

今日は、カメラ業界の異業種格闘技をバリューチェーンを書くことでどう捉えることが出来るか考えてみよう。
まず最初にこれまでのフイルムカメラ(正式には銀塩カメラという)のバリューチェーンを書くと以下のようになる。
Cameravc001_4
そこで最初に起きた異変が、通称使い捨てカメラ(正式名称レンズ付きフイルム)の登場である。
これによって何が起きたかと言えば、一番高価であるが故に今までカメラ業界の中心をなしていたカメラが不要になってしまった。
これをバリューチェーンで表すと以下の通りになる。
Cameravc002_1
もちろん、大半のユーザーは今まで通りの銀塩カメラを使用していたが、旅先でのスナップ写真などの一部のニーズは使い捨てカメラに移っていった。これによって困ったのがカメラメーカーであることはいうまでもない。どんなに高機能のカメラや低価格のカメラを作っても、相手がカメラを販売していないのだから対抗しようがない。

次に何が起きたかは、次回のお楽しみ。

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2007年2月14日 (水)

経営者未来塾

先日、2月10日(土)に日経新聞に掲載された経営者未来塾の講演録がウェブにアップされました。
以下のURLをご覧ください。既に新聞をごらんになった方は同じ内容です。
http://www.nikkei.co.jp/miraijuku/seminar_v3.html

実際の講演は1月12日(金)に東京丸の内の東商ホールで行われました。講演しているときは気がつかなかったのですが、大勢の知り合いの方が直接聞きに来てくださったようで、これまたありがたいことです。感謝。

ちなみに日経新聞掲載の反響は大きく、知り合いからはずいぶんお言葉や連絡を頂きました。また、かつての学生からもたくさんメールをもらったのは一番うれしいことでした。中には10年以上前の青山学院大学の学生さんで、私の講義がきっかけで経営コンサルタントの道に進んだという方もいました。

今回は内田さんのブログは字が小さいというメールを頂いたので一つ大きなフォントにしてみました。皆さんの感想をお聞かせください。

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2007年2月13日 (火)

バリューチェーンで見る(2)

2)業界を超えて起こる異業種格闘技の予測
異業種格闘技を見る上で、バリューチェーンが重要な理由の2つ目は、自社に閉じたバリューチェーンだけでなく、川上の部品・素材メーカーから、流通を通して消費者にまで到達する全体バリューチェーンを描くことで、業界を超えて起こりうる異業種格闘技の脅威やビジネスチャンスを把握することが可能になることがあげられる。

たとえば昔ナガオカというレコード針の優良企業が存在した。いくらナガオカが素晴らしいレコード針を作り続けたとしても、音楽を聴く手段がレコードからCDに変わってしまえば、レコードプレーヤが不要になる。そうなると当然ながらレコード針もいらなくなってしまう。したがって、レコード針あるいはレコードプレーヤー業界という狭い業界を見るだけでは不十分であり、音楽を聴くという行為全体をバリューチェーンで見ることが重要なのである。
具体的にはミュージシャンの音楽がどういう形で消費者まで届き、そのときに用意される容れ物はどのようになるかを理解することである。
バリューチェーンに落とせば、音楽(ミュージシャン)→編集(レコード会社)→製作(ハード)→マーケティング→流通→消費者という価値連鎖をしっかり捉えることになる。レコードからCDに変わればレコードプレーヤーがCDプレーヤーに変わる。
また音楽がデジタル化されるという側面に注目すれば、今度はレコードやCDという物理的な製品を必要としなくなるので、ネットワークを通じて音楽の流通・販売が可能になる。そうなれば、レコードメーカーのあり方が変わるだけでなくレコード店という流通網が大きく変わることが容易に理解できる。

同じような話は最近話題のテレビでも起こりうる。プラズマテレビの部品を作っているメーカーは薄型テレビの覇者が液晶になれば、ビジネスを失いかねない。もちろん、逆もまた真なりである。部品の供給先としてのテレビメーカーだけを見ていてもダメなのである。あるいはビデオデッキを作っていた業界にはもっと大きな試練が発生している。今までのテープに変わってハードディスクに録画する方法が主流になると、テープもDVDも媒体そのものが必要なくなってしまう。そうなるとわざわざ、デッキなど買わなくてもテレビに内蔵してしまえという話になるか、パソコンのハードディスクに録画しておけばいいという話になりかねない。さらにテレビ受像機そのものが、PCで十分と言うことになってしまえば、テレビメーカーは作るものがなくなってしまう。
もちろんハードディスクに録画したものをメディアにコピーして保存したり、他人に渡す、あるいは自宅のリビングで大型の薄型テレビで迫力ある映像を楽しむなどの需要は残るので、事業がなくなってしまうことはないと思うが、異業種格闘技になることは避けられない。

次回はカメラ業界のバリューチェーンを実際に書いてみることで、カメラ事業に起きている異業種格闘技を解説してみる。

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2007年2月12日 (月)

細身の優れもの

細身といっても、身体のことではなくペンのことです。
私は常日頃、単行本でも新聞でも雑誌でもすぐメモを取ります。特に電車の中が私の書斎みたいなものですから、スーツの内ポケットから取り出して、簡単にいろいろな色でメモが取れるペンを必要としています。
現在一番愛用しているのがドイツのステッドラー(STAEDTLER)の4色ペンです。オリジナルは黒ボールペン、0.5mmのシャープペン、オレンジの蛍光ペン、そして電子手帳用のペン(スタイラスといいます、先っぽの白いプラスチックのペンです)でしたが、電子手帳用のペンは不要なので、その分を赤ボールペンに替えて使用しています。
何が良いかといって、とにかく細いのです。それにも拘わらず4本分のペンの機能をきちんと果たす優れものです。どれくらい細いかを分かって頂きたいために通常使っている単色の黒ボールペンや鉛筆と一緒に写真を撮りましたが、分かって頂けるでしょうか?中央で銀色に光っているペンです。

Staedtler_2  

これは自動車のBMWのディーラーから記念品としてもらったもので、残念ながら現在同じものは市販されていないようです。少し太めのようですが、同様の機能のものは下記のステッドラー社のホームページで見ることが出来ます。
http://www.staedtler.co.jp/products/01_writing/09-multiwriting/index.html

どんな風に使うかというと、気に入った文章で後で参考にしたい文章、あるいは使うかどうか分からないが心に残った文章(といってもせいぜい1-2行の短い文章です)を、後で見返したときに分かるように赤ボールペンかオレンジの蛍光ペンで印をつけておきます。
茂木健一郎さんの新書「「脳」整理法」を読んだときにメモしたページの写真を載せておきます。

Memoonbook_3

ただし、これをパソコンに打ち込んだり、コピーを取ったりすると言うような面倒なことはしません。決して長続きしないからです。それでは忘れてしまって、後から思い出せないのではと心配するかも知れませんが、人間、正確には覚えていなくても誰の本あるいはどのタイトルの本かくらいは覚えているものです。そこで、その本をぱらぱらとめくると印をつけたページが見つかり、必要な文章を探すことが出来るのです。
また、シャープペンや黒ボールペンは思いついたことを本のカバーの内表紙や新聞の周辺部の隙間にメモを取るときに使います。もちろん余裕があるときはメモ帳やノートを取り出すのですが、満員電車ではそうした余裕もないために、読んでいる本や新聞にメモを取るのです。

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2007年2月11日 (日)

バリューチェーンで見る(1)

異業種格闘技を正しく把握する第一歩は、自社の属する業界のバリューチェーンを描いてみることである。バリューチェーンは価値連鎖と呼ばれ、多くの場合は付加価値をつけている企業の活動ごとに一つのボックスを用意するやり方であり、たとえばメーカーであれば、彼らの企業活動を機能で見て、材料・部品の調達、商品の開発、生産、マーケティング、流通などに分ける(下図参照)。

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異業種格闘技を捉える上で、なぜバリューチェーンが大事かと言えば、
1)業界内で起こりうる異業種格闘技の理解
自社の機能のうちのどの部分が異業種からの攻撃を受けたり、脆弱であるかを理解するためである。あるいは自社がよりよいサービスや機能を提供できる可能性がある機能(パーツ)を見つけ出すためである。
異業種格闘技が起きやすい業界のところで述べたように、もしある機能が消費者から見たときになくてもよい機能だったり、あるいはもっと上手なやり方がある場合には、そこを置き換えられたり、効率化されてしまう可能性が高い。逆にインターネットや技術革新を利用して、よりよいサービスを提供できるのであれば、それを他社に先駆けてやることも可能となる。

たとえば銀行の個人向けリテール事業のバリューチェーンを描けば、商品開発(預金・ローンなど)→インフラ(コンピュータシステム)→マーケティング(チラシ・コマーシャルなど)→販売・決済(営業店・ATM)という簡単ものになる。
それまですべて自前でやっていた商品開発の部分で、他社が開発した商品の方が魅力的であれば、その部分は仕入れる形でビジネスが変貌する可能性がある。投信や国債、保険などを銀行の窓口で販売しているのがよい例である。一方で、窓口やATMもこれまでは支店の窓口や自前で設置した駅前や繁華街のATMコーナーが当たり前だったものが、現在ではCVSなどに置かれているコンビニ銀行の窓口が消費者の圧倒的な支持を受け、銀行から見れば流通網の一部の機能だけを切り離した形になっている。となると、極論すれば、銀行の支店窓口は販売機能のみでどこまで経済性を維持できるかがカギとなり、決済システムとしての支店網の意味は限りなくゼロになることが予測できる。

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2007年2月10日 (土)

日経新聞登場

本日2月10日付の日本経済新聞14面に、先日行った経営者未来塾「異業種格闘技」の講演記録が大々的に載りました。
1面全部を使って異業種格闘技を紹介してくれています。感謝です。

Igyoshu070210

もちろん、すべてを載せることは不可能ですので、是非本誌を見てみてください。また、興味を持ったら、このブログのバックナンバーを見てもらえると大変うれしいです。ただし、バリューチェーンでビジネスを捉える方法、4つの戦い方などはまだこのブログでも紹介してませんので、乞うご期待です。

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2007年2月 9日 (金)

筋の善し悪し(3)

コンサルタントをやっていて、困ってしまう依頼に「とても実現が不可能に思えるのだが、それを証明するのがきわめて困難な話を何とかして証明してくれ」と頼まれることがあります。
あるお客さんから、今うまくいっていない技術が本当に使い物になるかどうか見てくれと頼まれたことがあります。経営者は長年の経験で、どうも使い物にならないのではないかと疑っているが、技術担当役員が開発がもう少しのところまで来ているので、あと少しだけ待ってくれ、そうしたら必ず競争相手を凌駕する画期的な製品が生まれると主張し、経営者にはそれを違うと判断するだけの知見がない。さらに、今その開発を中止してしまえば、これまで投資してきた何百億円が無駄になる。それを聞くと、経営者も少しもったいない気がして、捨てきれない。

我々が、その技術担当役員から話を聞くと、彼曰く、まず今開発中の技術改良に成功すると市場に出したときに圧倒的な優位性を築ける。また、その技術を使った生産を行うためには、追加の設備投資が後100億円だけ必要で、これまで使った数百億円に比べれば微々たるものであう。さらに、現在当社予定した生産の歩留まりが半分に留まっている為に生産コストが当初予定の倍かかっているが、これは実際に生産を開始すれば、やがて経験と共に当初の歩留まりまで改善するはずである。これだけ聞いて、何となくうさんくさいと思った方は正解です。でも、これを証明するとなると難しいのです。

そこで我々は、成功するのかしないのかではなく、成功確率がどれくらいあるのか計算してみることにしました。技術役員曰く、技術改良に成功する可能性は3ヶ月以内は5%くらい、半年なら1/3,1年でやっと50%ということです。また設備投資はともかく、その後実際に操業を開始してからの歩留まり向上の可能性はせいぜい2-3割が限度であることも新たに判明しました。
この後の難しい分析は省略して、結論だけ言うと、今から100億円突っ込んでこの事業で利益が出る可能性は2~3%程度しかなく、最悪数百億円の赤字も出る可能性も含めて、平均期待収益は大きなマイナスであることが分かりました。もちろん、2~3%でも可能性があれば、それにかけるのも立派な経営判断ですが、この経営者の場合は、この結果を見てようやく撤退を決断しました。

以上は実際にあった話を少し脚色しましたが、当事者(この場合は技術担当役員)が出来ると信じていることを、それは筋が悪いと言って諦めさせるのは本当に難しいことです。
さだまさしの歌ではないですが、「筋が良いとか悪いとか、人は時々口にするけど、そういうことって確かにあると、あなたを見ててそう思う」と歌いたくなってしまうほど、筋がよいか悪いかですべての結果が大きく違ってしまうことがコンサルタントの世界では日常茶飯事です。念のため申し上げると、本当は筋ではなく、運が良いとか悪いとかです。

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2007年2月 8日 (木)

樋口泰行さん

私の大好きな経営者に、前ダイエー社長の樋口泰行さんがいる。
彼の魅力を一言で言えば、現場の気持ちが分かる男である。彼は自分が経営する会社では、現場に入り込んで、現場の従業員の気持ちを理解しようとする。現場を重視するが故に、ゆっくりした意思決定に見えることもあるが、それが彼のスタイルであり、やがてきちんと結果を出す経営者である。
かつて勤めていたコンパックでもそうやって、PC事業を成功させていた。だからこそ、被買収会社の幹部というハンディがありながらも買収会社日本HPの社長になることが出来たのだと思う。この間まで社長をやっていたダイエーでも、そうやって中堅幹部の気持ちをつかんでいたようだ。

樋口さんとのつきあいは10数年に及ぶが、彼がまだ若い頃、何人かで一緒に飲みに行ったことがある。そのとき、初めての街で誰もどの飲み屋さんが安心して飲める店か分からず、困ってしまったことがあった。そのときである、樋口さんがとある店にすーっと入って行き、ニコニコこして店から戻ってきた。そして、「経営者と交渉して、一人1万円ぽっきりでお願いしましたから大丈夫です」と、真顔で言うのでみんなでその店に入り、楽しいひとときを過ごしたことがあった。
それ以来、私はすっかり樋口ファンになりました。ちなみに彼は私がこの話をするのをいやがります。こんなところに書いてしまってごめんなさい。
もちろん、これが理由で樋口さんを買っているわけではなく、経営者としての樋口さんを買っているので誤解のないようにお願いします。

現在は次の仕事を目指して浪人中であるが、きっとまたどこかの経営者になって成功するだろうと思っています。

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2007年2月 7日 (水)

異業種格闘技の起きやすい業界(5)の続き

2つ目は、お金と人材すなわち「経営資源」である。今はベンチャー企業をやろうとする人間に資金を出す人間あるいは企業には事欠かない時代であり、自分でお金を持っていなくても容易に起業できる。また、そのお金を出す投資家も、慈善事業で出すと言うよりは、将来成功した場合の上場益や売却益を期待して出す訳である。一方で、ベンチャー企業経営を目指す若者も後を絶たない。最近では、大企業思考の強かった東大生でもベンチャー企業に入社するものが結構いるという。また投資家だけでなく、起業家にとってもお金が大きなインセンティブになっていることは間違いがない。誰もが楽天の三木谷さんやソフトバンクの孫さんを目指すわけである。また、大企業に勤めていた人間がベンチャー企業に移って自分のスキルを生かしていくという例も増えてきている。
3つ目が「意識の問題」である。以前であれば、世間は大企業を一段も二段も高く見て、ベンチャー企業を蔑視する嫌いがあった。ところが、様々なベンチャー企業が登場し、社会の新しいニーズを満たすようになっているのを見て、社会がベンチャーを見直すようになった。もちろんライブドア事件などのせいで、一部逆戻りもしているが、総体としてはプラスに評価する方向へ変わっていると思われる。たとえば、最近話題になっているデザイン性の高い家電アマダナ(amadana)、低価格でしゃれたテレビを提供するバイデザイン(byD:sign)などは皆ベンチャー企業である。こうした家電製品を一般消費者が松下やソニーの製品を買うのと同じように購買するあたりに消費者意識の進化を見る。
こうしてベンチャー企業が経済的にも成功し、社会的にも市民権を得るにつれ、ますます新しいベンチャー企業の参入をもたらすことになり、そこかしこで異業種格闘技が行われる。

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2007年2月 6日 (火)

イベリコ豚は本当においしいのか?

昨日のアサヒ・コムに仮説検証に関する大変おもしろいエッセイが載ってました。
人間が食べ物をうまいと思う感覚を、科学的に定義し、かつ実際にそれを検証しようという話です。グルメの医者数人が、おいしいと言われているイベリコ豚が普通にスーパーで売られている豚と比べて本当においしいかどうかを科学的に検証しています。
問題に対する仮説、すなわちうまさの定義を考え、その仮説の検証法を考え、それを実験を通じて検証する。まさに、仮説思考そのもののアプローチです。
後は私がくどくど申し上げるより、実際の記事を読んでいただいた方がおもしろいと思います。
asahi.comの健康コーナーにある真田歩さんというお医者さんがかかれた「医局の窓の向こう側」というコラムです。
http://www.asahi.com/health/medicalasahi/TKY200702050130.html

我々コンサルタントの世界でも、そもそもどんな仮説を立てるのかというのがもっとも難しくて、その次に難しいのは検証方法です。この場合はそのどちらも無事(?)クリアしたわけですが、最後に落とし穴があったのですね。

ビジネスの世界では、仮説思考はまだまだなじみが薄いですが、科学や医学の世界では仮説思考は実は常識です。それを使って、こんなおもしろいことをやっている方がいるなんて、感動しました。

ということで、異業種格闘技の起きやすい業界(5)の続きは明日に回します。

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異業種格闘技の起きやすい業界(5)

異業種格闘技の起きやすい業界の最終回は、ベンチャー企業の隆盛である。
ベンチャー企業は業界ではないが、最近のベンチャーブームがいろいろな業界にこれまでにない戦い方をいろいろ持ち込んでいることは事実である。既にあげた例では、マイクロソフトを震撼させているグーグル、日本で言えば、中古車業界を変えたガリバー、証券業界を大きく変えてしまった松井証券、マネックスなどがある。今後はmixi(ミクシィ)、「はてな」のような企業が世の中を変えていくのかも知れない。
それではなぜこれほどのベンチャーブームかと言えば、私は3つの側面があると見ている。
1つ目は制度や技術に代表される「ハード面」である。以前に比べると株式会社を作るハードルはゼロに近いくらい低くなった、あるいは上場にしても大幅にルールが緩和されている。また、ベンチャーを支援するサポート制度も官・民両面で充実しつつある。また、インターネットや携帯電話に代表される技術の進化が新しい企業の市場参入を容易にしたり、数多くの新しいサービスすなわちビジネスチャンスをもたらしている。
2つ目と3つ目は明日紹介する。

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2007年2月 4日 (日)

筋の善し悪し(2)

前回も言ったように筋の善し悪しというのはきわめて感覚的な言葉なので、説明するのが難しい。いわゆる暗黙知である。しかし私もコンサルタントなので、何とか形式知化を試みてみる。
まず筋が良いというケースの具体例を挙げよう。ある消費財メーカーが売上の低下に悩んでいるので何とかしたいと思っていた。少し調べてみると、製品は競争相手に比べて劣っているわけではなくむしろ優れているところがある。また、製造方法に特徴があって、生産量を後2-3割増やせれば、生産コストがかなり下がることが予想される。競合はTV広告を含めてプロモーション政策に力を入れており、消費者の認知度が高い。その結果、小売店段階では、競争相手の製品の方が扱っている店舗数も多く、棚のスペースも自社より多い。それが競合とのシェアの差になっていると考えられた。こうした場合は、マーケティングミックスを工夫して、価格政策やプロモーション政策、あるいは卸・小売店対策をいじるだけで、大きな改善を見ることが多く、我々は筋がよいと考える。明らかにまだ自分の持っている経営資源を十分に活用していない上に、いじるべき政策変数が多数残っている。要するにオプションの数が豊富で、それぞれをいじった場合の改善幅が大きそうなのである。
一方、筋が悪い例をあげてみると、同じ消費財メーカーで同じく売上減に悩んでいる。ただし、こちらの場合は、業界ナンバーワンで、得意としている比較的年配向けの製品では50%以上のシェアを保っている。業界全体ではマイナス成長で、とりわけ自社の得意な高年齢層では年と共に一人当たり使用量が減っている。一方、二番手企業はシェアでは我が社に劣るものの、若者向け市場で圧倒的な地位を築いている。我が社も若者向けの商品をそろえているものの、年配向けの商品イメージを引きずっているせいか、競合の若々しいデザインやネーミングに比べて人気がない。我が社の製品に対するイメージ調査の結果は、お父さん・お母さんの○○という結果になっている。製品についても、年配者は大げさな商品変更を望まないと考えてきたために、どちらかというと小手先の改良にとどめてきた。結果として研究開発費はあまり使われてこず、製品開発力で競合に大きく見劣りする。これが少ない投資で大きなリターンをもたらしてきた要因の一つである。こちらは戦略オプションから見ても、企業の体質から見ても打ち手が限られるので筋が悪いと言うことになる。そもそもオプションが限られている上に、手を打ったところで競合に勝てる可能性や消費者の心を捉える可能性が少ない、すなわち改善幅が少ないと言うことになる。
ということで、まずはオプションの数が多いか少ないか、あるいはそのオプションを選択した場合の成功可能性やリターンの大きさが大きいかどうかと言うのが、筋の善し悪しの基準になる。

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2007年2月 3日 (土)

滑るマウス

最近購入してとても気に入っているマウスがある。
ロジテックという会社の出している"MXRevolution"というマウスである。まさにrevolution(革命)という名にふさわしいガジェット(注)である。
Mouse

PCを使っていて嫌なのは、自分が機器を操作していることを意識せざるを得ない場合である。自分の思考が本来の内容を考える作業から離れて、操作に気をとられてしまう。このマウスならそれがない。
とにかく使いやすい、滑るように走るのである。自分がマウスを操作していると言うより、マウスが勝手に動いているところに、自分が手を添えているだけの感じである。表面が平らな机なら、マウスパッドを置かないほうが、スムースな動きが実現できる。
また、どういうテクノロジーを使っているのかは分からないが、フリースピンモードというのはまるで氷の上を滑っているようで、今まで20種類以上のマウスを使ったことがある私でも未体験の感触である。

これを使ってPCを操作すると仕事ができる人間になった気がする(あくまでも気がするのであって、本当に仕事ができるようになったかどうかは検証していない)。

実売価格12,800円と、マウスとしては相当高いが、仕事でPCをよく使う人なら絶対元が取れる優れものである。

機会があったら、ぜひ一度、お店でさわってみてください。

(注)ガジェットとは英語のgadgetからきており、便利な小物・文房具あるいはしゃれた機器・電子製品といった意味で使う。私は自他共に認めるガジェットおたくであり、コンサルタントとして大成しなかったら、ステーショナリー(文房具)評論家になろうと思っていた。

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2007年2月 2日 (金)

異業種格闘技の起きやすい業界(4)の続き

昨日に引き続き、非効率な機能を保持したままの業界の話である。
機能分化が果たされておらず、未だに商流・物流・情報流が分離できていない業界にも異業種格闘技が発生する可能性が高い。
たとえば自動車業界を考えてみよう。
皆さんが車を買うときにどうするかといえば、多くの人はまず自動車ディーラーに行ってみる。そして、そこで実車を見たり、カタログをもらったり、ショールームにいる係の人に話を聞いたりする。興味がわけば、再度日を改めてセールスマンから詳しく話を聞いたりするし、あるいは別の自動車メーカーのショールームをのぞいてみたりする。そして、いよいよ買う車が絞られてきたら、目当ての車が置いてあるディーラーのショールームを訪問して、そこで希望の車を試乗したり、セールスマンと価格その他の条件交渉を行う。その際、ローンが必要であれば、ディーラーでローンを申し込むことも多い。また、買い換えの場合は、自分が今持っている車を下取りという形で買い取ってもらう。また、カーナビゲーションやアクセサリーなどもそのディーラーで購入することが多い。
やっと晴れて車を手に入れると、その後には定期点検、車検、故障の修理、事故の修理などが必要になり、これもディーラーに持って行けばすべてやってもらえる。
すべてを一つのディーラーですますことが出来、一見効率的に見えるが本当にそうだろうか。
よく考えてみると、複数のメーカーの車を比較購買するためには、それぞれのディーラーに出向いていかなければならず、下手をすると週末の半日を一つのメーカーでつぶすことになる。3-4社ディーラーを回ることにすれば、確実に土日がすべてつぶれてしまう。また、自分の乗っている車の買い取りは、もしかしたら買い取り専門業者の方が高く買ってくれるかもしれない。また、せっかく新車を購入しても、その日に車が手にはいることはない。ナンバー取得などの手続きも必要だが、それ以上にメーカーからディーラーまで運ばれてくるのに時間を要するため、実際に手に入れるまでに2週間から1ヶ月くらいかかることはざらである。そして納車の日は、セールスマンが自宅なり会社まで持ってきてくれることもあるが、こちらからディーラーまで出向いていくことも多い。
何が言いたいかと言えば、自動車業界の仕組みはメーカー側の効率重視ではあるが、消費者視点あるいは全体最適の視点から言うと無駄が多いのである。
そうなると、消費者の購買行動も情報収集、実車を見る&試乗、受け取り、アフターサービス、それぞれ別々に最適化を図った方がよいかもしれないし、そんな企業がたくさん出てきてもおかしくないと言うことになる。
たとえば、情報収集は、ネットや情報媒体(メディア)を使って、自宅にいながらにしてすべてのメーカーを一度に比較する。実車を見るのはもちろん出向いていく必要があるが、これも一カ所で各メーカーの車を見てみたい。また、出来るだけ多くの実車があって試乗できることが望ましいが場合によっては飛行機のシミュレーターのような装置でも良いかもしれない。今乗っている車の買い取りは自宅まで来て査定してくれる中で一番高いところに売ろう。また、支払い方法はディーラー、銀行、クレジット会社などのローンが横比較できるとうれしいが、これは別にリアルの店舗でなくても全くかまわない。ネットで十分だろう。納車は出来るだけ早いほうがよいので、ディーラーからではなくメーカーから直接届けてもらいたい。また、サービスを受けるのはいざというときのことを考えると自宅から一番近いサービス拠点で受けたいために、実際に車を買った店とは別の店や場所でもかまわない。早く、こういう日が来ないかな・・・。

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2007年2月 1日 (木)

異業種格闘技の起きやすい業界(4)

4つめは非効率な機能を保持したままの業界である。
これだけではわかりにくいと思うので、もう少し具体的な例で言うと、たとえば生鮮食品流通の世界に異業種格闘技が起きている。
まず、これまでの生鮮商品流通といえば、生産者の生産物を農協などの生産者代表がまとめて、大都市などの消費地にある生鮮市場(青果市場や魚市場など)に送り、それを仲買人などの卸業者が取り扱い、そこからはじめて小売店に送られる。当然ながら、こうした多段階流通は結果として余分なコストがかかったり、輸送に時間がかかることも多いので、購買力のある大手小売店などでは産地と交渉して、直接取引を行っているところも多い。ダイエーなどは自社で牧場まで所有していた。その結果、産地直送によりコストが安くなるだけでなく、時間も早くなって鮮度も保たれる。小売店が従来の生鮮品流通ルートを全く通さない流通形態を実現したという意味で、異業種格闘技である。
一方で、宅配便の普及により産地の方が既存の流通をすっ飛ばして直接消費者に販売する動きも加速されている。いわゆる宅配便を使ったうまいもの便や郵便局が取り扱っている各地の名産品の産地直送便である。生産者が流通(卸・小売りの両方)を省いて、直接消費者へ届ける形の異業種格闘技である。
こうした流通段階での無駄を省く動きはこれまでにも盛んに行われていたが、ここへ来てインターネットの発達がさらにユニークなビジネスを生み出している。従来は地元の客かそこへやってくる観光客くらいしか相手に出来ない地方所在の小売店がインターネットのおかげで突然販路を全国に広げることが出来るようになった。とりわけ楽天の存在がこの動きに拍車をかけることになったのは皆さん知っての通りである。もちろん消費者にアピールできるユニークさ(味、価格、アイデアなど)がなければ成り立たない話ではあるが、零細地場小売店が全国区に名乗りを上げたという意味ではこれも立派な異業種格闘技である。

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